絵本、または夜行列車の話
ひょんなことから某所にて流れてきた、絵本『やこうれっしゃ』(西村繁男著、福音館書店)を本屋で買ってみた。
絵本ではあるが、文章やストーリーは一切ない。
吐く息も白いある冬の夜、上野駅から金沢へと向かう夜行列車、そこに乗り込む人々。ネオン輝く大都会を離れ、トンネルを抜け山を越えると、北へ北へと向かう列車の周りにいつしか降り始めた雪は徐々に強くなり、やがて吹雪へと変わる・・・という情景は好きだ。
こうした光景もある意味、日本人の原風景だなぁと思う。自分の実家も雪国だから、同じような経験は何度もある。東京を中心に文化が発達した現代日本において、この手の物語の舞台となるのはだいたい東北や北陸が多いが(この絵本を含めて)、その辺りの雰囲気は我々西日本も同じだったりする(「三国峠をぶち抜いて日本海の季節風を太平洋へ抜けるようにすれば新潟に雪は降らなくなり、余った土砂は日本海へ持って行って佐渡島を陸続きにしてしまえばいいのです!」とのたまった田中角栄のおっさんはすさまじかったwww)。
特にこれが年末の押し迫った時期であれば、これ以上はないほど良い雰囲気だと思う。
ある人は田舎へ帰省、ある人はスキーを担ぎ、沢山の荷物やお土産にちびっ子を抱え、多くの人々でごった返す駅や車内・・・。
「皆さん、さようなら。年が明けたらまたここへ帰ってきます」
「ではよいお年を。今年もほんまにお世話になりました。向こうでもええ正月を過ごして下さい」
「おじいちゃんやおばあちゃんはお年玉をくれるかな? 雪はいっぱい積もってるかな?」
「金沢はこの前の寒波でずいぶん降ったらしいから、雪も沢山積もってるんじゃないか?」
「今年のレコード大賞は誰になるんっすかねぇ?紅白はどっちが勝つのかな?」
「んー、やっぱジュリーじゃない?百恵ちゃんはまだ若いでしょ。」
(隣の席の若い連中、今何時や思うてんねん・・・人が寝とう横で飯食いながらペチャクチャしゃべりおってからに・・・)
「そういえばこの上越線も近いうちに新幹線が通って、高速道路までできるらしいですなぁ」
「ほー、それはまた・・・。便利になるのはいいことですけど、角栄さんも無茶しますなぁ」
「それに引き替え国鉄はやれストだ値上げだと・・・困ったものですわ」
(BGM:『喝采』ちあきなおみ)
仕事納めを終えて故郷に帰って、大掃除をして神棚を飾り付けて、餅をこねて年賀状を出して、買い出しをして料理を作って、全てを終えてから紅白歌合戦を観て、年越そばを食べて除夜の鐘に耳を傾けて・・・「日本の原風景」なるものがもしあるとするならば、一番はやはりこれではないか、と思う。
今は車内での喫煙など論外だが、この頃は問題なし。寝台ではない普通の座席では、向かい合った座席に足を渡したりして雑魚寝をしている。聞くところによると母親の高校の修学旅行の帰路も、長崎から姫路まで正にこんな感じの雑魚寝状態だったらしい(自分ならとても耐えられそうにない・・・)。
初版発行は1980年だから、まだJRが国鉄と呼ばれた時代。夜行列車には乗ったことのない世代だが、ああこれが昭和の夜行列車だったのだな、自分も1度乗ってみたかったなぁと思いを馳せる。
そんなことを考える1冊だった。