魚屋とお客と子どもたち
自転車からトロ箱を下ろす魚屋のおじさんと、お客と子どもたち。
かつて、母や祖母から「昔は自転車にトロ箱を積んだ魚屋さんが家の近くまで来ていて、『これまけてぇな』などと値段を交渉して買っていた」という話を聴いた。
自分の世代など「物を買う」といえば、店に行って値段のついている物を買った経験しかなく、値段のついていない物を「もう少し負けてくれ」と交渉して買う、というやり方がよくわからなかったので、それがすごく新鮮に感じた。
「刺身は10分くらいかかりますけど、大丈夫でっか?」
「わかりました。後でこの子に取りに行かせまっさかいにな。これ、おばあちゃんはちょっと用事があるし足も悪いさかい、お刺身ができたらあんたが取りに行くんやで」
「ハーイ」
「おい坊主、売り物なんやからあんまり魚を触ったらいかんど」
「大丈夫やって。ちょっと見とっただけやって」
「あんた、魚屋さんもあない言うてはるし、もうそろそろ帰るで」